嘘だった。
「いっそ、クリスマスなんて、来なければいいのに…!!」
つい嘆息したのを、隣にいた若者は聞きのがさなかった。
「先輩ときたら、スクルージみたいなこと言うんですね?」
スクルージ?
「あれっ。知りません?『クリスマス・キャロル』ですよ」
何、それ?
「そういうお話があるんです。イギリスの」
イギリスといえば、あったかあい紅茶だワと、ちらと思ったのが顔にでもでたのだろうか、後輩がこちらを伺いながら言った。
「ちょっと一息いれていきませんか?」
「そうね…。契約もうまくいったことだし」
「乾杯といきましょう」
二人は、つい今しがた、クライアントのところで、大きな交渉をまとめてきたばかりだったのだ。
ガラスばりのカフェで、彼女はアフタヌーンティを注文する。
急に風が強くなったのか、外をいく人々は、みなコートに首をうずめている。
窓から見あげる空は、しーんと澄み渡っている。
「やっぱり、もう冬なんだねー」
彼女は、ティポットから熱いお紅茶を注ぐ。彼の分も。
「あっというまに、一年ってすぎるのよね?」
「そうですかあ?」
彼は、あっさり受け流す。
「そう思わない?思わないっかあ。若い証拠だな」
「なあに言ってるんですか。幾つもちがわないくせに」
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